2014年4月29日火曜日

森の中43

(昨日のつづき)

 チヨが、じっと手を見ているトウに「早く着替えなよ」と言った。「うん」とトウは頷いて、自分の箪笥にの引き出しをあけてゴソゴソと奥の方から、橙色のタオル地の服を取り出して着はじめた。そのタオル地の服は、川や湖で泳いだあと、まだ濡れた身体を上手く拭けないトウのために、マキさんがバスタオルを改造して作ったワンピースだ。チヨはモソモソとその服に袖を通しているトウを見て、
「トウ、その服は泳いだ後に着る服でしょう? 今日はお祭りだから赤い模様の服を着るんじゃないの?」
と言った。「うん?」とトウはタオル地の服を半分着た格好で止まってしまった。そのまんまトウはごにょごにょと口の中で何か考えていたが「そうか、おまつり」と頷くと、着かけてた服をしまって、赤い花の模様のワンピースを着た。チヨもトウとお揃いの赤い花柄のワンピースを着ていた。カンは赤い鳥の描いたシャツを着ていた。A子は生成りのワンピースを着てちょっときまり悪そうにうつむいた。それに気付いたチヨは机の引き出しから赤いビーズの首飾りを出して、A子の首に掛けた。A子は嬉しそうに「ありがとう」と言った。「準備OK、さあ、朝ご飯食べよう」とチヨたちはトウの手を引きながら子供部屋を出た。
 居間の机の上には、パン屋さんでもするのかしら?と思うくらい沢山のパンが並べて乗せられていた。子供らがビックリしていると、「さあ、好きなだけ食べていいわよぅ。まだまだ、焼いてるんだから」とマキさんがお盆に温めたミルクを持って来てくれた。その後ろから、大きな平べったいカゴにパンを一杯並べたS子がつづいてきて「ほら、焼きたて食べなさい」と皆のお皿にパンを2個づつ置いた。子供たちは夢中でパンを食べた。
「ふう、お腹いっぱい。母さん、今年はパン屋をするのね。このパン、ぜったい売れるわ。すっごい美味しいもの」
とチヨが一息ついてるマキに言った。
「そうだと、いいんだけどね。売れなきゃ、あんたたち一週間くらいパンばっかり食べる事になるわよぉ」
とマキさんは笑った。
「パンばっかりでもいいよ」
とトウが言った。チヨもカンもA子も頷いた。
「ふふふ、あんたたちが良くても母さんがイヤだわ。ねぇ、S子さん」
と、マキさんはS子に同意を求めて振り向いた。
「あら、私も、このパンなら、パンでも大丈夫よ。でも、きっと売れちゃうわ」
A子がやっぱりパン屋さんをするんだと思っていたら、コウが「パン出来たかぁ。屋台の準備できたぞ」と居間に入って来て、パンをひとつ口にくわえた。その様子を見てチヨが笑いながら「ねぇ、かあさん、売る前におとうが全部食べちゃうんじゃない」と言った。

(つづく)

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