2013年2月25日月曜日

〈風景画と遠くからめぐる声〉のこと

2/22-23に見に来てくださった方々、Ustreamで見てくださった方々ありがとうございました。

〈風景画と遠くからめぐる声〉の絵2枚と文章7つ載せておきます。

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「海の上 船でのこと」

 2ヶ月ほど、船長をしないか?というやとわれ話をされたとき、船室で時計でも磨いていればいいからと言われたので船長になった。
指定された港にいくと、小型だがなかなか立派な帆船だった。でも、乗組員は船長と船員が3人の計4人の少人数で経費削減とからしかった。それでも、その船員たちはよく働し、海の知識も豊富だからとても頼りになる。でも、3人だって眠らなきゃいけないから、3人は交代しながら働いている。はじめ船長は何をすればいいのかと3人に訊ねたら、3人は顔を見合わせて笑いながら、「デンと構えてくださいよ」といった。だから、しばらくはホントにデンとかまえてたんだけど、退屈だし、3人は忙しそうだし、船長は船を動かしてくれてる3人の為にできる事をしようと思い、甲板の掃除をしたり洗濯や食事を作ったりすることにした。始め船員たちは「そんなこと私たちがしますよ」と言ってくれたが、掃除も食事作りも船長の方が上手だったので、そのうち「船長!今日の晩ご飯はなんですか?」とか「船長!後部デッキの右に鳥が糞をしてました」とかが普通になった。船長は、なんだか1番下っ端のようになってしまったのだけど、4人の中で一番、船も海も知らないのだから、これでいいと思っている。
 実のところ、船員の3人も今回の雇われ船長はいい人で良かったと思っていた。近頃は海の事も船の事も大して知らない名目だけの雇われ船長が増えたが、船長=「船で一番エラい」と思い込む輩が少なくない。そういう場合は、客以上に注文が多く、思い通りにならないと癇癪をおこしたり、ずっと酔っぱらっている輩もいた。そうなるとかなり船旅が面倒なウンザリしたものになり、大概がそうなのだ。
 
 そんないい人の船長が夜に見張りマストで望遠鏡を覗いていたら、急に目の前を何かが横切った。驚いて、あやうく望遠鏡を海に落としそうだった。あー落とさなくって良かった。
「それ、それなに?それなに?」
「えーと、どちら様ですか?」
「えー、それなにそれなに?」
「これは、望遠鏡です。で、どちら様ですか?」
「えー、望遠鏡ってなに?」
「遠くを見る為のものです。で、誰?」
「えー、遠くってドンくらい?」
「・・・10倍くらいまで見えます。つまり、1m先のものが10センチ先にあるくらいに見えるんだと」
「へー、どうなってるの?」
「中にレンズが入ってるんだけど、詳しい事は知りません」
「ふうん、じゃね、バイバイ」
えーと、船幽霊ってやつ? 何の用だったのだろうと思ったけど、まぁ、いなくなったのでいいかと、船長は見張りを続けた。
  
 だんだんと東の空が明るくなってきました。
船長は日が沈むときよりも、夜明けで日が昇る時の方が地球が回ってるという事がしっかり実感できると思う。
もうじき、船員の藤田さんが交代に来てくれるでしょう。そしたら、朝ご飯を作って、食べたら少し眠る。夜起きていて、朝に寝るのは少々悪い事の様な気がする。
「船長、おはようございます。あ、釣った魚が冷蔵庫にあるので、下ごしらえしてくださいって小山さんが言ってましたよ」と言いながら藤田さんが上ってきた。
「何の魚ですか?」「あー、なんでしょう?見てないもので。あ、もし、白身だったらフライにして欲しいです」「わかりました」
船長は朝から魚をさばいて、フライの準備は面倒だなぁと思ったけど、白身フライは美味しいのでしょうがない。

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「雨とカッパ」

 雨がなかなか降らない。こんなにずっと蒸し暑いのだから、雨雲が発生して当たり前なのに。
ぞわっと手足の先の方から鳥肌が身体の芯の方にむかって流れ立った。一瞬遅れて、首の後ろから頭を被うようにゾワゾワと毛が逆立つ。
もしかしたら今晩はもう降らないのかもしれない、湿気ばかりがあたりに充満していた。
纏まった雨さえ降ればこんなモヤモヤした気分が晴れる様な気がしていた。もちろん、雨が降ったからといって何か答えがでるわけではない。でも、この偏頭痛は治まるかもしれない。ベランダの窓際に立ち、薄い雲に全体を覆われた灰色の空を見上げ恨めしく思う。雨も降らない気温も下がらない、もうすぐ日も暮れるのに。
空を見続けていても雨が降る訳でもないので、シャワーでも浴びようと部屋の方を向くと、机の上に見覚えのないグラスが置いてある。切り子のこじゃれたグラスで、中に青い液体が入っている。

「それ、カッパがくれてん。さっきコンビニに行く途中に地面から呼ぶ声が聞こえっからさ。ここ、蓋されてんって声がするねん。何のこったと思うたら、そこ暗渠やって、アスファルトの道なんやけど、前は川やってん。んでも、たしか、そっから、20m先の太田さんとこは、暗渠にするの断りはったから道空いてるの知ってたから、流れの20m先は空いてるでって、教えたってん。ほんだら、え、ほんまに言ううて、ザブザブ聞こえるから、うちも太田さんの家の前まで行って待ってたら、カッパでてきてん。カッパちょっとしんどそうやったから、これ、ココ以外、ずーと暗渠になってしもてんで、って言うたら、うわーほんまにー言うて困ってたから、うん、この辺の細かい川は全部暗渠にして道広げはったんよ言うたら、うわー、ほんでもずっとここに居るのはマズいしなぁ、何言うてもカッパやからって。せやったら、もうちょっと山の方に行って、あ、何やったら、もう、吉野とか和歌山の方のカッパ居ってもおかしないとこ行ったらええんと違う?言うたってん。んだら、わし、そんなとこ行った事ないんやけど、どうやって行ったらええの?言うから、えーと、大和川上って行ったら、結構ええトコまで行くんちゃう?言うてたら、太田さんのおばちゃん出てきて、いや、カッパやん、めずらしなぁ、言いはって、一瞬カッパ逃げそうやってんけど、おばちゃんが、いや、逃げんかてええやんかいうて、キュウリあげよか、言うて、なんか冷えたキュウリ持ってきてくれはってん。何か知らんけど、うちにもくれて、あんたら、マヨネーズか塩かいるか?言いながら、マヨネーズも持って来てくれて、さすがにカッパはマヨネーズちゃうやろ思ってんけど、カッパもなにこれ?言う顔してたけど、結構気にいとったみたいで、うわ、この白いの美味しいわ。って言うてたわ。んでから、おばちゃんに暗渠の事聞いたら、せやねん、暗渠よーないよなぁ、まだ、役所の方から言われてんねんけど、なんかなぁ。言うたはって、んで、大和川の話とかカッパとおばちゃんとしてたんやけど、結構、カッパ1匹で行くの大変ちゃうか。ってなって、んだら、おばちゃんが、あたし電車賃やろか?言うて、2000円くれはってん。んで、言うてもカッパやから、目立つやろ。電車のったら。せやから、変装させた方が良いかなぁ言うたら、おばちゃんがTシャツと帽子持って来てくれたんやけど、カッパちょっと小さいからETみたいなって、よけい目立つやろってなって、んだら、あんた、こん中いれて連れってたり言われて。んで、しゃあないから、コロコロついた鞄にカッパ入れて吉野まで行ってきてん。ほんま、電車空いてて良かったわ。んでも、トンボ帰りで結構こうしんどかったわ。あ、柿の葉寿司買って来たで。あぁ、そうそう、んで、そのガラスのコップはそのカッパがくれてん。3個くれたから、うん、おばちゃんにも2個あげてん。なんか、涼しい音がすんねんて、んでも、ホンマ太田のおばちゃんええ人やわ。」

コポコポと水の湧く音がグラスからした。
雨が降って来た。

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 「草原の小屋と小鬼」

 草原の真ん中に小屋を建てよう。
ここでなら、雨も降るし、風も吹く、日は降り注ぐだろうし、雪だって積もるだろうし、雷だって鳴るだろう。
草は生えてるし、花も咲く季節もあるだろう、種も飛ぶだろうし、枯れてもまた生えるだろう。
虫だっているし、鳥だって飛ぶだろう。ネズミやモグラもいるだろう。
そのうちに、低い木も育つだろう、そしたら、林になるだろう。林になれば、森になる日もあるかもしれない。
私が死んだら、小屋はそのうち砕けて小さくなるだろう。そのうち溶けてしまうだろう。そのうち、砂になって土になって、こんな所に小屋があったなんて分からなくなるだろう。
 
 嵐の日に扉を叩く音がした。何か飛んで来て扉にあたったのかと思ったが、鳥とかだと助けなきゃと思ったので、扉を少し開けてみた。
素早く私の横を小さい影が通った。扉を閉めて振り返ったら、とんがり帽子の子供がちんまり暖炉の前に座っていた。
私は、ミルクを温めてその子供にやった。子供は美味しそうに飲み干した。スープとパンをやるとそれも美味しそうに食べてしまった。
「ごちそうさま」と丁寧にお辞儀し、出て行こうとするので、嵐が止むまでいれば良いと子供に言った。子供は恥ずかしそうにモジモジしていたが、また暖炉の前にちんまり座った。
「実は、ぼく、あなたを連れにきたのです」
私が首を傾げると、
「ぼくは小鬼なんです。弟がお腹を空かせておるんです」
私は連れられるとたべられるのかな?
「いや、僕たちは人間なんか食べません。でも、家で食事を作ってくれる人がいないのです」
食事係かな?親はいないのかな?
「ええ、僕たちは卵から生まれて、だいたいの親は卵を産むと死んじゃって、しばらくはその卵の殻と親の身体を食べて大きくなるんですけど、僕らの親は死ななかったらしくって、僕らは殻を食べただけなんです」
それはお腹が空きそうだ。
「ええ、僕もう腹ぺこだったんです。もうちょっとで、小さい弟を食べちゃいそうだったので、逃げてきたんです。弟を食べると僕は独りになっちゃうでしょう」
パンやスープやミルクでいいなら、弟も連れておいでよ。
「いや、弟はまだ根っこが付いてるから、移動できないんです」
じゃぁ、朝に嵐が止んでたら、私は君と一緒に君のうちに行くよ。
「ええ、そうしてもらえるととても嬉しいです」
では、今日は、もう寝よう。私は小鬼の為に暖炉の側に寝床を作ってやって、明日の為に食料や鍋や包丁なんかの荷造りをしてから眠った。
 朝起きると嵐は止んで、いい天気だった。
小鬼はまだスヤスヤと眠っていたので、家畜の世話を友達に頼みに町に出かけた。友達には少し旅に出ると言っておいた。
家に戻ると小鬼が戸の前で泣いていた。私の姿を見ると更に激しく泣いた。
どうしたんだろう?
「だって、起きたら居なかったから、きっと鬼の家になんか行きたくないって、逃げちゃったんだって思ったんです」
それは、すまない。留守にするって友達に言ってきたんだ。
「じゃぁ、一緒に行ってくれるんですか?」
あぁ、君の弟にも会いたいしね。
「あぁ、良かった」
 というわけで、私は小鬼の家に行き、兄弟の世話をしてやった。2人とも良い子だったので、とても楽しかった。
私が行ってから、1ヶ月ほどで弟の根っこも取れて、1年もたつと角も生え変わり、2人は立派な赤鬼になった。私たちはささやかなお別れパーティーをして、さよならをした。

 私は草原の小屋に戻って、友達の家に帰ってきたことを伝えに行くと、なんだ行かなかったのか?と言われた。
私は1年程居なかっただろう?と言いかけたが、思い直して曖昧に手を振って分かれた。急いで家に戻ると、出かけた日と同じで、ホコリ一つ溜まってないどころか、持って行ったはずの鍋や包丁や食料はそのままだった。なかったのは小鬼に作ってやった寝床だけだった。
でも、ちゃんとお別れパーティーで小鬼がくれた小さい角は2つともポケットに入ってた。それから、その角をいつも持っていたけれど、特別にそのせいだという様な良い事も悪い事も起きなかった。まぁ、別にそれはいいんだけど、1回くらい遊びにきて欲しいと思う。

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「山 鍾乳洞」

 朝ごはんの時に「昨日の川のトコで遊ぼう」とMちゃんたちは言っていたが、部屋で少し荷物を片づけてから旅館のロビーにいくと、Mちゃんたちはもういなかった。行った先は分かっていたが、置いて行かれたという気持ちも手伝ってなんとなくメンドクサくなった。ガラス戸からの光は強烈だが、逆光でロビーは濃い影になっている。
床には臙脂色とサーモンピンクの椿柄の絨毯がひいてある。よく見ると結構えげつないデザインだ。誰もいない民芸調の受付の横に「洞川温泉-楽しいハイキングマップ」というポスターが貼ってある。何年物のポスターなのだろう?止めてあるセロハンテープは黄色く干からびていて粘着力の欠片もなさそうである。どうやって壁にへばり付いているんだろう?
温泉場から鍾乳洞まで「道行き650m-20分」と書いてるのをみて、一人で散歩がてらとフラッと行ってみることにした。
 
 川沿いの国道は隣県に抜ける道で以外に車が多い。こんな所を一人で歩いてるのが珍しいのか、車に乗っている人たちにすれ違いざまにジロジロと見られる。誰か誘ってくれば良かったなぁと思いながら、しばらく行くと鍾乳洞コチラの矢印が、山に入る細い脇道の入り口に立っていた。割と急な階段が山の中に伸びている。木漏れ日がキラキラと揺れている。
急に後ろからプオーッと大型トラックのクラクションが鳴った。驚いたが、振り返らずに階段を少し駆け上がった。きつい階段を15分ほど上がりつづけたが、誰ともすれ違わない。連休の日曜日で、温泉場にも結構ハイキング客がいたのになぁ。まぁ、650mなんだし、階段を登りきると鍾乳洞があるんだろう。でも、階段の先に鍾乳洞は影もなく、山肌に沿って細い下り坂に続いていた。細い下り坂をどんどん行く。山の谷間に沿って道はどんどん険しくなる。木の根や石ころだらけでスニーカーでは底が薄くて歩きにくいほどだ。登った階段と同じくらいの道のりを下ると、また上り坂だ。おかしい、絶対に650mは歩いてるはずだ。30分以上歩いているのに、道を間違えたのだろうか? いや、でも、初めに鍾乳洞コチラの矢印があった。それに戻るにしても進むにしても上り坂である。風が吹き周りの木々の葉擦れが冷やかす笑い声に聞こえる。まぁ、昼ご飯までに旅館に戻ればいいわけで、同じ道を戻る気など起きないのだから、どの道進むのだ。「ふんちゃかちゃか、そうよねー、鍾乳洞はしろいよねー♪」でたらめな歌を歌いながら、さらに歩き続ける。もう道は登ったり下ったり、獣道のようになっていく。「やーじるし、やーじるし、やーじるしあったかー♪20分が30分、1時間とか歩いてるー、道はどんどん細くなるー、でも、1本道なのねー♪あの地図、誰が作ったのー、絶対、絶対、直線距離だーとかっ、ねぇ、ふんちゃかちゃー♪こんなに歩いて、ついて鍾乳洞がしょぼかったら、だいぶいやー♪」もう、歌っていろんな事をゴマカしながら進み続ける。なんとなく1人で歌ってる事が空しくなったのと、誰かが聞いてたらどうしようと思い、しばらく無言で進む。汗がダラダラ流れでて、Tシャツの背中が冷たい。これ、帰るのかなり面倒だなぁ。と思って顔をあげたら、「鍾乳洞、150m」と木に赤いペンキで書いてある。はいはい、期待はしてません。と思ったが、そこから、直ぐに少し開けた所に出て、休憩の台と誰もいない案内小屋があり料金200円と書いてある。鍾乳洞の小さい入口があった。

 「これ、入って良いのかな?」と声にだして言う。また、風が吹き周りの木々の葉擦れが冷やかす笑い声に聞こえる。
まぁ、せっかくだしと200円を小屋の受付の小さい賽銭箱のような箱に入れた。穴の壁の手すりをつかみながら、鍾乳洞の入口の階段を降りて行く。中は以外にもちゃんとされた鍾乳洞で手すり付きの見学通路が整備されていて、鍾乳石には「銀糸」とか「羅漢」とかそれっぽい名前が付いていて、ライトアップされていた。なかなか、見応えがある。誰もいないので、折り返し地点の「花園」と名付けられた鍾乳石をぼんやり眺める。「あーーー」と声を出し、響くのを聞く。ぴちゃんぴちゃんと洞窟の天井から水のしずくが落ちる。
ちょっと怖くなる。足早に出口に向かう。出口でチラッと振り返る。


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火の燃える場所

 帰りが終電で。タクシーの行列を横目に通り過ぎ、歩いて家に帰る。明日の仕事の段取りとか、買うものや家で用意できるものなんかを考える。考え事をしている方が早く家に着く気がする。もう0時50分なのに、眠ってない家が結構ある。夜更かしだなぁ。人の家の明かりを見ながら妙な安心感を覚える。そう言えば、夜の空いてる電車に乗るのが好きだ。外は真っ暗なのに、あの妙に白い蛍光灯の明るい車内に座っていると守られているような、ここは安全だというような安心感がある。車掌さんのアナウンスにしても、眠ってしまっている乗客も、今日はもうすぐ終わりで、家に帰っていいんだという雰囲気がある。映画館や劇場で出し物が終わって、館内に電気が点いてザワザワと皆が帰り支度をし、ゾロゾロと出口から出て行く感じにも似てる。お風呂に入って身体を洗って湯船に浸かってるときの安堵感にも似てる。なんか、一区切り付くたびに解放された状態が好きなのだ。
 向かいから風が吹いてくる。夜吹いてくる風は通りがいい。
細い川沿いの道を歩く。桜の木が3本と間に街灯が一つ。街灯の回りに蛾が飛んでいて、桜の木の影を揺らす。
蛾とか夜行の昆虫が光に集まるのは何故だろう?と思っていたんだけど、集まるってわけではないらしい。月や星の光で飛ぶ角度を保ってる虫が、電灯など人工の光や炎の明かりは近くにあるので、角度を保って飛ぶと、光源の回りを回ってしまい、いつの間にか近づきすぎてしまうらしい。んで、そうなると飛翔によって離れる事が難しいようです。なんだ、集まりたくて集まってるんじゃないのか・・・。
 川が左に折れる所の橋を渡り、家と家の間の坂道を抜けると田んぼが広がる。駅から10分も歩くと田んぼや畑ばっかりだ。
真ん中当たりで火が燃えている。こんな夜中に焚き火だろうか。でも、火の回りに誰もいない。
速水御舟の「炎舞」を思い出す。兄が切手を持っていた。大事にしていて、あまり見せてもらえなかったけど、闇の中で炎が高く燃え上がり、キレイな色の蛾が飛んでいた。火を盗んだ罪が許される事は無いんだろうとつくづく思う。火を見てると火を盗んだ時の感情に近い様なものが自分の中にあるように思う。憧れとか信仰とか恐怖とか畏怖とか安心感とか集中力とかそういうこと。何かを得た時の代償を払うこと。「死ななければなりません」という台詞が出てきそうな。いや、でも、そもそも、火を盗んだ事は罪なのかしらと思いながら歩いていると、焚き火を通り越す。風が吹く。あ、っと思って振り向くと火は赤く大きく揺らめいていた。

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「ヒコタク(見晴らしの良い場所)」

「ここらで、一番見晴らしの良い場所におろして下さい」
その客は言った。
「そうですねぇ、ここらで一番見晴らしの良いのは、あの山のテッペンか、あの岬の突端になりますが、どちらが良いですか?」
「あ、じゃぁ、・・・」

 飛行タクシー、略してヒコタクをやってるとこういうザックリした場所の指定には慣れている。そりゃ、出来れば「上野の博物館まで」とか「六本木の交差点」とか「小田急の入口」とか言われた方がいい、こっちだって飛行とはいえタクシーなわけだから。そもそも、ヒコタクは渋滞の激しい駅前とか国道なんかでも、専用の飛行レベル(グランドレベル+300m~600mで設定されている)があり、最短最速で移動できる交通手段として世に登場したのだ。なのに、初っぱなのTVCMで『何処でも行ける未来の乗り物』感を全面に押し出したもんだから、客は完全に舞い上がった連中ばかりだった。TV番組の企画の影響もあって「東京タワーのテッペン」とか「樹海」とか「海の真ん中」とかそんな所に行きたがる。殆どの乗務員は普通のタクシーと両方シフトで振り分けられてるのだけど、最近ではヒコタクは皆嫌がっている。だって、俺たちはアトラクションの運転手ではなく、日常の移動手段としてのタクシー乗務員なのだ。それに、だいたいそんな変な場所に降ろしたら、そこで客が満足するまで待機になってしまう。知り合いの中には「海の真ん中」の客が料金を払うとオモムロに浮き輪を取り出し、「じゃぁ」といって海に飛び込んでしまった。料金も貰ったし、帰ってしまおうかと思ったらしいが、その客の荷物が全部後部座席に置きっぱなしだったらしい。タバコを1本吸ってから、しかたないので海で漂う客の所に行ったら「ごぼごぼ、な、な、なんで、すぐ来ない!!ごほごほ、俺が溺れて死んでたら、おまえのせいだぞ!!」と怒鳴られた上に車の中をビチャビチャにされたり、同じ様な状況で「大丈夫です。帰りたくなったら、また呼びますから」と平気でいう客もいる。いやいや、完全に海を舐めてるだろう、帰りに呼んだって海の真ん中で簡単に見つけれないってば。さすがに今ではCMや番組では「ヒコタクは危険な場所での乗り降りはお断りさせて頂きます」って注意書きも出るし、ある程度ブームも去ったけど、まぁ、今だにそういう客もいるってことだ。
それでも、私はヒコタクの運転が好きだったし、バカな客も面白いしと仲間内に言ってたら、最近のシフトはほぼヒコタクばかり回ってくる。

「ここらで、一番見晴らしの良い場所におろして下さい」
その客は言った。
「そうですねぇ、ここらで一番見晴らしの良いのは、あの山のテッペンか、あの岬の突端になりますが、どちらが良いですか?」
「あ、じゃぁ、山のテッペンにお願いします」
「了解です。」
山のテッペンは駐車スペースが足りなかったので、山頂にアタックできる位置にヒコタクを停車させた。
「あのえーと、ここ標高3000mくらいあるんで、お客さん降りると高山病とか山を下る様な準備されてませんよね?一応、こちらとしましては危険地帯にお客さん降ろせない事になっているんですよ。」
「あ、そうなんですか。じゃぁ、岬の方にしてもらえば良かったかな・・・。えーと、ちょっとだけとかダメですか?」
まぁ、割と頑丈そうな人だし、ここまで連れてきたんだから、ちょっとくらい外に出ても大丈夫だろう。
「えー、そうですね、あくまでも自己責任になりますけど。それから、帰りはどうされますか?私、ここで待ちますか?」
「あ、できれば待ってて下さい。テッペンに行ってすぐ戻りますから」
と言って、その人は足早にテッペンに登って行った。下から見てると慣れた道のようにスルスルと登って行く。なんだ、どうやら訓練をしている人のようである。

1時間程で帰ってきた彼は、少し息を切らせて、
「じゃぁ、あの横浜の井土ケ谷駅までお願いします」
と言った。

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海の底

この辺の水は冷たい。
この辺の水は温かい。
この辺の水は熱い。
この辺は生物が多い。
この辺は誰もいない。
この辺はガスが溜まっている。
この辺はマグマが溜まっている。
ここに横穴がある。
ここに縦穴がある。
あそこに船がある。
あそこに階段がある。
あの辺は気泡が沢山上がっていく。
あの辺はプランクトンが降ってくる。
あの辺はすごい大きな音がする。
あの辺は全く音がしない。
その辺はまだ行った事がない。






2013年2月4日月曜日

〈風景画と遠くからめぐる声〉


2/22(金)-2/23(土)にBlanClassにて、〈風景画と遠くからめぐる声〉ワークショップ&パフォーマンスを行います。
皆様、お誘い合わせの上、ご来場を心よりお待ち申し上げています。
 

どっかの景色の地図もって
  ホウホウ声を出しながら、遠くの遠くのあそこまで
 雨など降ってはいませんか、嵐はやってきませんか
  何時ごろだろ、ちょっと変なトコへもよってこか 
    ゆらゆらゆっくりコダマをかえし
      迷子になるやもしれません


2.22(金)|ワークショップ
金曜日は一緒に旅をしましょう(blanClassに居ながらにしていろんな所を巡るツアーにご参加ください)。
開場 18:00 開始 19:00 
一般¥1,000/学生 ¥800


2.23(土)|パフォーマンス
土曜日はその様を見せる事が出来ると思います(前日に巡った場所の物語を語ります)。
開場 18:00 開演19:00 
一般¥1,000/学生 ¥800
USTREAMでの中継:http://www.ustream.tv/channel/blanclass-night


※両日参加してもらった人には、風景画のポストカードつき


blanClass
http://blanclass.com/japanese/schedule/20130222/