2014年4月9日水曜日

森の中39

(昨日のつづき)

 A子は深い湖の底に沈んでコポリコポリと泡を吐いている。泡はクルクルと螺旋を描きながら水面に上がって行く。湖の底は白い柔らかい砂だ。水も暖かい。A子は水の動きに合わせてフワッと浮かんだり流されたりする。A子はゆらゆらと光が揺れている水面を見ていた。湖の天井は光の網の目ようだ。すると、ザブンとその網を破って何かが飛び込んで来た。それは一直線にA子に向って来る。白い犬だ。白い犬はA子の右手の袖を加えると上へ上へと泳いでA子を引き上げて行く。A子は右手を軸にクルクル回る。白い犬はA子を岸に引っ張り上げて、ぶるぶるっと身体についた水をはじき飛ばした。それから「わん」と吠えて、森の方へ歩き出した。「待ってよ」とA子も犬の後をついて歩いていく。

「・・・・ねえ・・ねえ、どうしたの?」
とカンがA子の顔を正面から覗いた。A子はハッとして、カンの顔をじっと見た。カンと二人で家に帰る道を歩いている。月明かりの下をざあざあと夜風が渡る。
「こぽっ、なんか、今ね、森の中の湖でね、こぽっ、白い犬がまた、こぽっ・・・、ううん、何でもないわ。きっといろいろあって疲れて寝ぼけたみたい」

(つづく)

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