2014年4月8日火曜日

森の中38

(3月29日のつづき)

 森の家の人がパチンと右肩のとこで指を鳴らした。肩の上で三角の印になっていた白い粉はふわっと空中に舞い、焚き火の熱ですっと蒸発した。
「ああ、焚き火がすっかり小さくなってる」とA子は呟いた。目を薄く開けて頭を半分ほど上げた。身体が随分と温もっている。まだ半分眠っているようだ。「ああ、右手が暑いな」と手袋を外す。パサッと手袋が地面に落ちた。手袋の紐の先を目でたどって行くとの左の手があった。「あっ」とA子は顔を上げてカンを見た。カンが微笑んでいる。
「おかえり、遅かったね。皆は先に帰っちゃったよ」
焚き火の側に居るのは、A子とカン、それと森の家の人だけだった。
「さあ、僕たちも帰ろう」
「う、うん。あの、待ってってくれてありがとう」
カンは照れくさそうに笑いながら、片手を着いてヨッと立ち上がった。A子もよいっしょと立ち上がってお尻についた砂を払った。二人は森の家の人に「それじゃ、おやすみなさい」と挨拶をして帰って行った。森の家の人も「ああ、おやすみ、また明日」と二人に手を振った。二人が帰った後、森の家の人は炭スコップでカツカツと焚き火を崩しながら、残りのまだ赤い炭で三角の形を作った。それは出来たての星のようにときどきパチパチと爆ぜた。

(つづく)

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