2014年3月29日土曜日

森の中37

(昨日のつづき)

「あ、その枕と人形はダメ!!」とA子は目の前の作業員の手から、枕と白い犬の人形をぶんどった。
「ひやっ、ああ、ごめんなさいね。でも、いるものは分けてあるって、奥さんがおっしゃってたものでね」
「まあ、ゴメンナサイね。この子、さっき帰って来たものだから、ほら、あんた、他にいるものはない?」
「うん、大丈夫。あの、ごめんなさい」
「いえいえ、良いんですよ。枕や人形は売れないものですしね。売れないものは処分になるから、持ってってもらった方が良いんですよ」
A子は頷いた。作業員は、またテキパキと荷物を運び出して行く。しばらくすると、部屋から三角のカゴ以外のものが全部無くなっていた。玄関先でS子とリサイクル屋が話している。空の段ボール箱みたい。
「そいじゃ、こちらが買取代金の361,129万円で、こちらが処理代の10,000円です。で、こちらが出張&作業費5,000円になりましす。で、差額が346,129円です。了解いただけましたら、ここに、サインお願いします」
「あら、見積もりよりも随分と多いわよ」
「あ、先ほど、トラックに積み込みながら、改めて料金を算出しましたが、テレビが新型だったのと、ソファーの状態が良かったのと、後、鞄と靴の方が何点かブランドもので状態が良かったので。もし、明細がお入り用でしたら送らせていただきますよ」
「あら、そうなの。何だか得しちゃった。明細は必要ないわ。ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ。では、またのご依頼お待ちしております。失礼いたします。ありがとうございました」
バタンとドアの閉まる音がして、ふんふんふんと鼻歌まじりに母が上機嫌でリビングに戻って来た。
「ふふ、得しちゃったわ。やっぱり、村でも初めはお金はあった方が心強いものね」
「・・・得しちゃったって、母さん、もしかして、父さんに買ってもらったバッグも売っちゃったの?」
「やだ、あれは売ってないわよ。カゴに入ってるわよ。でも他はぜーんぶ売っちゃったわ。ああ、何だかセイセイしちゃった。ねえ、あんたお腹減らない?中華でも取ろうかな~」
と言いながらトイレに行った。A子は枕を持ったままビックリして立っていた。持ち物を全部売って34万円って、高いのかしら?安いのかしら?でも、トイレから戻って来たS子を見ると清々しい様子なので、そんなことはどうでもいいんだ。たぶん、お金だっているだけあればいいんだと思った。
「あ、ねえ、母さん、中華いらないわよ。帰ったら夜食があるってチヨちゃんが言ってたわ」
「あら、そうなの。じゃあ、マズい中華なんかいらないわね。ところで、ねえ、A子、いつまでそれ抱いてるの?」
「あ、ほんと」
「早く、カゴに入れちゃいなさいよ」
「うん」
A子が枕を入れようと三角のカゴの蓋を取ると、カゴの中に茶色の革の鞄とカーテンと調味料とトイレットペーパーが3個入っていた。
「やだ、かあさん、なんでカーテンと調味料とトイレットペーパーなのよ」
「何言ってるのよ、何よりも直ぐにいるじゃない。お布団は入らなかったから、マキさんちで2、3日は借りれば良いでしょ。でも、恥ずかしくてトイレットペーパーは借りれないわ」
「やーね、村にも雑貨屋さんあるわよ」
「あら、でも、いいのよ。あるもの買わなくていいじゃない。あんたこそ、その枕もうヘタヘタじゃないよ」
「いいの、この枕で寝るとよく眠れるの」
A子は枕を三角のカゴに入れて蓋を閉じた。

(つづく)

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