2014年3月27日木曜日

森の中35

(昨日のつづき)

「白い犬をちょっとでも見失うと森じゃないとこに行くのかな・・・」前を行く白犬が木の陰や岩陰でフッと目線から外れる事がある。「あ、また木の陰に入っちゃった」A子はちょっと前のめりに転びそうになった。顔を上げると突然に森が開けて、目の前に湖があった。A子は白い犬を探してキョロキョロと回りを見回した。「わおーん」白い犬は、砂地に置いてある木のボートの上で満月に少し足りない月を見上げて吠えている。「ふふ、オオカミみたいだわ」A子はボートに近寄った。白い犬が湖の真ん中を見つめている。「分かったわ、ボートを湖に出すのね」A子はボートを湖まで押した。ボートはザブンと水しぶきを立てて、そして、ゆらゆらと浮かんだ。A子はとっとボートに乗った。白い犬が舳先で前を向いている。ボートは波のない盆のような水面をナイフで切るようにすーっと進んでいく。湖の真ん中辺りでボートはピタリと動かなくなった。湖の底からぽかりぽかりぽかりと泡が3つ出て三角になった。「ここにカゴを置くのかしら?」A子はその泡をじっと見た。泡はザクロ石のような赤い色をしている。白犬が「わん」と小さく吠えた。A子は三角のカゴを泡の上にそっと置いた。カゴは泡に包まれて、フワフワと湖の底に沈んでいった。

(つづく)

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