2014年3月18日火曜日

森の中32

(昨日のつづき)

 ゆらゆらとした影を追って、A子とカンは黙って、夜の森の中を歩いていた。
「ねえ、A子ちゃん、僕たちの前を歩いているものが分かる?」
「えーと、うっすらとだけど、えーと、たぶん白い犬だと思う」
「そっか、やっぱり僕と案内犬は違うんだね。僕を案内してるのは黒い犬だから、もしも、僕とはぐれても、その白い犬の後を着いてけばいいからね」
「え、案内犬?」
「うん、森の中は、黒い犬か白い犬が案内してくれるものなんだ。今日の夜は三角のカゴを置くべき所に連れってってくれるんだ」
とそう言いながら、横を歩いているカンの姿がだんだんと薄くなっていく。「ん?」と思ってA子は目を擦った。やっぱりカンが半透明になって消えていっている。
「え、カン、ドコ行くの?」
そうA子が言いかけた時には、カンの姿はすっかり見えなくなっていた。あれ? でも、手袋に着いた紐の先に、カンの左手だけ浮かんで見えている。
「良かった。カンは見えなくなったけど、側にいるんだわ」
大丈夫。A子はふうと息をはいて、少し先で振り返る白い犬に頷いてみせた。白い犬は、聞こえない声でワンと吠えると森の奥へ進んでいく。A子はカゴをしっかりと持ち直し、白犬の後を歩いていった。月の光がずっと森の中まで照らしていた。「森の中が、白と黒と銀色の粒だわ」とA子は思った。

(つづく)

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