2014年3月17日月曜日

森の中31

(金曜日のつづき)

 森の広場で焚き火が燃えている。赤い焚き火は、天に向かって手を伸ばしている、ゆらゆらと、熱を持った生き物のようだ。大勢の村の人たちが、紺色の衣装を着て、ザクロ石で飾った三角のカゴを持ち、その焚き火をぐるっと囲んで座っていた。森の家の人が、焚き火を囲む村人の後ろを、ゆっくり歩いて回っていた。そして、十四日月が焚き火の真上に上った時に、森の家の人は立ち止まって、一番近くに座っている村人の右の肩に白い粉をかけた。白い粉は右肩の上で戻るための三角の印になった。森の家の人は右回りに順番に印を付けていく。印を貰った人たちは、そっと立ち上がり、焚き火から離れ、いろんな方向から森に入っていく。
「ああ、次の次の次だ」A子はドキドキしていた。森の家の人が隣に座っていたカンの右肩に粉をかける。印を貰ったカンは立ち上がって焚き火を離れようとする。と、A子の右手が浮いた。あ、手袋を付けたままだ。森の人は「おや、じゃあ一緒に行きなさい」とカンを脇に待たせて、A子の右肩に粉をかける。A子は印を左手でそっと確かめながら立ち上がった。森の家の人は、次のチヨの肩に白い粉をかけていた。カンが小声で「行こう」と耳打ちした。A子とカンは二人で森に入っていった。A子は森に入る前にチラッと焚き火の方を振り向いた。焚き火の側で母親のS子がゆっくり立ち上がる影が見え、その先に小さなトウの背中が一人で反対側の森の中に入っていくのが見えた。

(つづく)

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