2014年3月13日木曜日

森の中29

(一昨日のつづき)

 ちょうど、太陽が真上にあった。「抜けるような青空というのはこういう事を言うんだわ」とA子は思った。コウとマキ、チヨとカンとトウ、そしてA子とS子たちもすっかり紺色の衣装で身支度をして、家の前にいた。でも、マキさんだけは普段着のままだ。
「やっぱり、私も残って、マキさんのお手伝いしようかしら?」
「もう、S子さん、せっかくお祭りに来たんだから楽しんでらっしゃいよ。それに、そうよ、ここに住んだら、S子さんは来年は自分の家を守らなくっちゃいけなくなるわ。だから、前夜祭は回れなくなるよ」
「あら、じゃあ、一回は前夜祭も見といたほうがいいのかしら・・・」
「そうよ、明日は一緒に回れるからね」
何だか、すっかり母親同士が仲良くなっている。チヨとA子はそれを見てクスクス笑った。
「カン、しっかりトウの面倒見てね」
「うん。トウ、この手袋を右手に付けて」
カンがトウに渡した手袋には1mくらいの紐がついていて、カンが左手にしてる手袋と繋がっている。
「うん、カンにい、しっかりついてきてね」
皆、くすくす笑った。
「S子さんとA子ちゃんも、これを」
とコウがひも付きの手袋を渡した。
「A子ちゃんのは、私がするわ」
とチヨが繋がった右手をはめた。そして、コウが何気なく、S子と対の手袋をはめようとしてるのを見て、S子が「え、私がコウさんとペアなの?」とどぎまぎしている。それを見たマキがコウに言う。
「あんたって、ホントにデリカシーがないわねえ。それもA子ちゃんに渡しなさいよ。まったく」
「そうよ、お父さん、バカね」
「ええ、なんだよう。独りずつの方が動きやすいだろう」
「えーと、そうね、トウ、手袋をS子さんに渡して、おとうとペアになりなさい」
「トウもカンにいのほうがいい」
「なんだよ、俺、人気ないな」
「うーん、じゃあ、とう、おとうとまわったげる」
トウがS子に手袋を渡そうとしたのを、チヨが「あ、そうだ」と取ってA子に渡した。そして、「はい、S子おばさんは、私と」と自分と繋がっている手袋をS子に渡した。
結果、トウとコウ、A子とカン、チヨとS子というペアができた。
「これが一番いいわ」とA子は自分のアイデアに満足している。マキさんも「そうね」と言って頷いた。A子とカンだけちょっと照れくさそうだ。

(つづく)

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