2014年3月11日火曜日

森の中28

(金曜日のつづき)

 ぶかっとした紺のズボン、紺の地下足袋、紺のシャツ、星の飾りと草花の刺繍を施した紺のマントを着る。
「可愛いけど、不思議な格好ね」
「今夜は森に入るのにこの格好じゃないと、捕まっちゃうからね。紺色だと夜に紛れるでしょう」
「捕まるって何に?」
「何って、森のものによ」
「それ、捕まるとどうなるの?」
「えーと、森になっちゃうらしいのよね、えーとね」
昨年、村では21人の人が死んだ。彼らは森のお墓に埋められている。そして、祭りの日、満月の晩は、森のものは活発に動く。死んだ人の魂は、ものに吸い取られて、森の一部になる。だけど、森のものは死んだ人だけじゃなくて、他の命も吸い取ってしまうことがある。満月の夜は森の中をものが地下と空中をグルグルまわる。ものはぐるぐる回りながら、熱のあるものを内に引っ張りこんでは、外に吐き出す。出たり入ったりしてるうちにだんだん形があやふやになって、森と混ざっていく。
「でも、この服着てれば大丈夫。ほら、刺繍もお揃いだから迷う事もないわ」
チヨはそう言うけど、A子は今晩森に入るのがちょっと怖いような気がした。

(つづく)

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