2014年3月6日木曜日

森の中26

(昨日のつづき)
 
 目が覚めたA子は、ベットから居りて台所の方へ歩きながら、なんだか身体がふわふわするし、チカチカと何かが弾けているような感じがすると思った。台所にはもう皆いて、お母さんはパンの生地を捏ねていて、テーブルではチヨとカンとトウが朝ご飯を食べている。
「おはようございます」
「あら、おはよう。良く眠れたようね。今日は前夜祭よ。たくさん料理を作るからA子ちゃんも、そこのサンドイッチで、朝ご飯すましたら手伝ってね」
「はい」と言いながら、A子もチヨの隣に座ってサンドイッチを食べはじめた。
「ね、今日の前夜祭って何があるの?」
「んと、夕方になったら、森にカゴを持って行くの。昼は子供は村の家を回って、カゴを集めたり、道の角で歌ったり・・・。んー、とにかく楽しいわよ」
「きょうはおかし、いっぱいもらえるよ」
空になったお皿を持って、トウがぴょんと立ち上がった。そして、水道の前の台に上って自分でお皿を洗って棚にしまった。カンも同じように皿をしまった。チヨも食べ終わってる。
「大丈夫よ。ゆっくり食べて。あの二人はとっても張り切ってるのよ」
急いで食べようとしているA子に、チヨは笑いながら言った。
「そうよ、ゆっくり食べなさい。朝ご飯は大事よ」
とお母さんが温めたミルクを注いでくれた。その時、玄関の方からザワザワと人の声がした。
「おーい、A子ちゃん、お母さんが来られたよ」
コウが台所の入口から顔を出した。その後ろにA子の母が行儀よく着いて来た。が、テーブルでサンドイッチを食べているA子を見るやいなや、ぐいっとコウを押しのけ、つかつかとA子に近寄って、テーブルの端を叩きながら大きな声を出した。
「もう、あんたって子は、あたしがどんな毛心配したかわかってるの?」
その声の大きさにA子はちょっと面食らった。
「で、でも、森に行ってって言ったのは、母さんじゃない」
「そ、そうだけど、何日も帰ってこないなんて、それにお祭りがって、手紙を大きな黒犬が持ってきてっ、今日だって、大きな白い犬がっ」
「まあまあ、奥さんもサンドイッチ召し上がらない?随分と朝早かったのでしょう?」
A子の母がちょっと泣き出しそうなところへ、チヨたちのお母さんがミルクをそっとテーブルに置きながら言った。
「そうよ、おばさんもサンドイッチ一緒に食べて」
チヨの声に、A子の母ははっと我にかえって回りを見た。トウがビックリした顔でA子の母を見ていた。
「やだ、私ったら人のお家で大きな声を出しちゃったりして、ホントに私ったら、ご、ごめんなさい。そ、そうね、頂いていいかしら?」
「ええ、ええ、どうぞ、どうぞ。お祭りの料理を作ったら、村を案内しますわ」
「あ、ありがとう。あの、もし良かったら、その、そのお祭りのお料理のお手伝いしていいかしら」
「あら、それは助かるわ」
A子は急に行儀よくなった母を見て笑った。
「ふふ、母さん、料理得意だもんね。ね、ほら、食べてみて、この村の料理スゴく美味しいのよ」
「やーね、笑わないでよ。もういいじゃない、でも、あんたが元気そうで安心したわ」
母はふうと息をついてから、サンドイッチをひとつつまんで「本当だわ。なんて美味しいのかしら」と言った。
「ん、黒い犬と白い犬って何の事?」
A子は首を傾げた。

(つづく)


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