2014年3月5日水曜日

森の中25

(2月27日のつづき)

「こっちよ」とチヨはA子の手を引いて、カンはその後を少し遅れてとことこと川沿いの道を歩いている。
「あ、あの辺、湯気がたってる」
と、A子が指を指す川の流れの右の方が湯気で煙っている。
「あそこの先の道を右に入った林の中に温泉があって、そこから川にも少しお湯が流れているのよ」
右手の先にこんもりとした林、その曲がり角に「天の川温泉」と書かれた幟が2本立っていた。
 
 お湯は白く濁って少しゆで卵の匂いがする。
「ふふ、ちょっと遅い時間だから貸し切りね」
「すごいわ、こんなに温まる温泉知らないわ。なんだか、いろんなこと忘れちゃいそう。そうだ、明日、お母さんを連れて来たあげていいかしら」
「うーん、明日は止めた方が良いわ。だって、ここ明日は空と繋がっちゃうから誰も入れないのよ。でも、お祭りの後だったら大丈夫」
「え、空と繋がるって、なあに?」
「ん、だってココは天の川だもの。ほら、空にあるミルキーウェイなの。よく分かんないんだけど、あそこからココにお湯が沸いてるのよね。それで、満月の時は月が明るくて星は見えないじゃない。だから、こっちに反転しやすいんだって、確か4年生の時に習ったわ。ねえ、カン、あんた理科得意でしょう。あたしの説明あってるかしら?」
「えーと、反転というのとは少し違うけど、だいたいそんな感じ。でも、普段も小さな穴は開いてるんだ。で、距離と時間の関係があるんだけど、姉ちゃんどうせ聞いても分からないだろ」
「あら、生意気ね。そうよ、女にとってはそんなことどっちでもいいんだわ。ね、A子ちゃん」
「なんか難しいのね。でも空と繋がってるなんて、ちょっと話は信じられないわ・・・。でも、ココに入ってたら、そうなんだってことが何となく分かるわ」
「そうそう、理屈なんかどうでもいいのよ」
「でも、お祭りの間に温泉に入ったらどうなるのかしら?」
「それは、簡単。どこかに行っちゃうのよ。それにココすっごく光るから眩しくって近寄れないわよ」
「ふうん、ホントにこの村は町とは違うのねぇ」
A子は半分顔を沈めて、ぶくぶくと息を出した。
 ずっと遠くはずっと遠い。ココで見えてるあの星は今じゃないってこと。

(つづく)

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