2014年2月15日土曜日

森の中21

(昨日のつづき)

 部屋の真ん中の丸い大きな木の板の上には森の模型が置いてあった。
「母に森に入った男の人を捜してきてくてって言われたんです」
とA子は森の家の人に言った。
「うーん、最近はあんた以外の町の人間は森には入ってないようだが・・・。どんな男だい?」
「うーん、私も一度しか会ったことがないんだけど、母の恋人らしいんです。その人が突然居なくなったとかで、よく分かんない占い師に森にいるって言われたとかなんとか」
「それで、あんたが探しに来たのかい」
「ええ、母がとても森には行けそうもないって泣くので」
「ほう、まあ、森があんたを外に出したのだから、その人は森には居ないのだろうよ」
「ええ、私も居ないと思ったんですけど。時間が経ったら母も落ち着くだろうし。それよりも・・・」
そこまで話してA子はじっと森の模型に目を落とした。
「なるほど、つまり、あんたが森に来てみたかったわけだ。しかし、町の人間が急に森に入るのはどうかな」
「ごめんなさい」
「いやいや、怒ってるわけじゃないさ。森も知らない人が急にズカズカ入ってくるとビックリしたんだろうよ。でも、あんたを川に流した事を悪かったと思っているさ。ほら、ここ見てごらん」
森の家の人が模型の川を指差した。A子が流された辺りで、小さい小さい玉がチカチカ光って瞬いていた。その辺りの木々もさあさあと風に揺れている。
「まあ、キレイ・・・これ模型じゃないの?」
「同じ小さい森じゃな。小さい森は大きい森の小さいのじゃよ」
「じゃあ、私が入って来たのも、流れてたのも見てたのね」
「ああ、見てたとも。だから、そこの三人があんたを助けに行っただろう」
「あ、そうだわ。私まだお礼を言ってなかったわ。本当にありがとうございました。カンもホントにありがとう」
「いやいや、どういたしまして。でも、カンは仕掛けにハマっただけだろう」
サクがカンの方を見てからかうように笑った。
「違うわ、黒い私を人だって助けに来てくれたのよ。でも、私、分からなくて食べちゃたんだけど・・・。でも、食べてからもずっと大丈夫だって言ってくれたの。だから、私、差し出されたカゴに大人しく入ったのよ」
A子はサクにちょっとふくれてみせた。それから、カンにもう一度「ありがとう」と言った。カンは照れくさそうに頷いた。

(つづく)

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