2014年2月13日木曜日

森の中19

(8日土曜日のつづき)

 若い芝生が黄緑色の絨毯のような中庭の真ん中に樫の木が生えている。その下にパンや野菜のスープ、卵、果物、コーヒーなどが置かれたテーブルがある。森の家の人を挟んで子供たちが楽しそうに話していた。
「じゃあ、A子さんは森の向こう側から来たのね」
「うん。こっちに村があるのは行商のおじさんから聞いた事があるけど、町の人は普通は森には近づかないから」
「へえ、なんで森に入ったんだい」
「あー、それはね・・・」
「まあ、それは後でゆっくり聞くとして、朝ご飯を食べよう。そら、三人もそこに座って、あなたも一緒に」
三人と手伝い女が席に着くと、皆で簡単なお祈りをしてから、もぐもぐと朝食を食べはじめた。
「このパンもスープもすごく美味しいわ!こんな美味しいもの食べた事ないわ!」
とA子はゴクリとパンを飲み込んで言った。
「そりゃ、おまえさんが随分食べてなかったからだろうよ」
「ううん、違うわ。確かに黒くなってた時はものすごくお腹が減ってたけど、今は普通に減ってるだけよ。そうじゃなくて、町ではこんなに美味しい物はないのよ」
「そうなの?町の人はそんなにいつも不味い物を食べてるの」
「うーん、不味いってほどじゃないけど、こんなに美味しくないわ。村の食べ物もこんなに美味しいの?」
「うん。祭りの日に母さんが作る料理も焼くお菓子は、もっともっと美味しいよ」
「そうだ、お祭りまで居たらいいじゃないの」
「おまつり、おいしいよ」
「ほんとに?これより美味しいの?」
「そりゃ、祭りの日はごちそうを作るからな」
「うわー、食べたいわ!そのお祭りはいつあるの」
「えーと、一週間後かな」
「・・・一週間、そんなに家を空けると母に怒らるわ・・・」
「じゃあ、後で連絡してあげよう」
「え、町に連絡できるの?」
「そりゃ、何とでもできるさ。さあさ、これも遠慮せずに沢山お食べ」
「うん」
皆で美味しくテーブルの食べ物を平らげた。森の家の人がコーヒーを飲み干して、カップをトンとテーブルに置いて言った。
「A子さん部屋で話を聞かせておくれ」

(つづく)

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