2014年2月5日水曜日

森の中15

(一昨日のつづき)

 トウがハンモックの中で眼を覚ました。すうすうとかずうずうとかチヨやコウたちの寝息が布越しに聞こえていた。トウはむにゃむにゃともう一度眠りに戻ろうとしたとき、トウの鼻は空気に含まれた甘いミルクの香りを嗅いだ。ぐうとお腹がなった。トウはもぞもぞとハンモックの中で身体を動かした。ハンモックはゆらゆら揺れた。トウは両手で自分を包んでいる布の端を持ち、徐々に端に身体をずらして、くるんと器用にハンモックを一回転させた。その反動でふわっと放り出されるように少しばかり空に浮いたが、トウはしっかりと布の端を持っていたので、ぷらんとハンモックにぶら下がることができた。そして、足をパタパタさせて床を探したが、あとちょっと届いていない。トウは布を握っている手をパッと放した。すっとっと上手く着地した。甘いミルクの香りは廊下の方からしてくるようだ。またお腹がぐうとなった。トウは皆を起こさないようにそっと部屋から出ると、迷路のような廊下をとことこ歩いて行った。
 
 台所では手伝い女がヤギのミルクの入った大きな鍋をゆっくりかき混ぜていた。「よし」と鍋の火を消した時に、ぐうとお腹のなるような音がした。手伝い女は自分のお腹をさすってみたが、どうも自分のお腹じゃないなと首を傾げた。すると、もう一度ぐうとなった。すぐ横のところでトウが手伝い女を見上げていた。
「おや、あんた、もう目が覚めたのかい」
「トウのおなかがなった」
「ははは、ああ、さっき搾ったばっかりだ。いい具合に温まったから、一杯あげようね」
トウは「うん」と頷いて、瓶がたくさん並べてある机の側の小さい足踏み台に行儀よく座った。手伝い女は、カップにミルクを注いで「少し熱いからね」とトウに渡した。トウは両手でカップを持って、こぷこぷとミルクを飲んでいる。手伝い女は、「るるる、ふふふ、ららら」と歌いながら、ミルクを並べた瓶に順に詰めていく。それから、ミルク瓶に栓をして奥の貯蔵部屋へ持って行き、鍋や杓文字を洗って、机を布巾できれいに拭いた。
(つづく)

0 件のコメント:

コメントを投稿