2014年1月16日木曜日

森の中


 森の中は他とは時間の流れ方が違うのか周りの世界からは見えない。森の木々は、幹を太くし、枝を伸ばし、葉を生い茂らせている。根もトコロ狭しと張り巡り地面を持ち上げて凸凹に波打たせている。凸凹の地面はいろんな種類の苔で覆われ、黄緑色に発光しているようだ。中空は均等な薄い光と瑞々しい冷えた空気で満ちている。辺りはしーんと静まりかえっていて、ときどき聞こえる甲高い鳥の鳴き声や随分離れている筈の国道を通るトラックの排気音は、別世界からの呼び声のようだ。
 こんな場所で生きているかどうかも分からない男を探す。なんて馬鹿げているんだ。そうは思っても、探さない訳にはいかない。絶対に、見つけれる訳などないのに。なぜ、ここに探しに行くように言われたのかもよく分からない。あんな占い師の言葉にになんの根拠があると言うのだ。占い師の言葉を信じた母に森に行くように説得され、今、森に居る自分を思うとA子はスッと冷めた気持ちがした。ため息をつきながら、結局、男を探しているのかどうかよく分からないまま、足元の根につまずかないように森の中をゆっくりと歩いている。何処かから途切れ途切れにザァザァというノイズのような音が聞こえる。そのまましばらく進むとザァザァという音は切れ目がなく続くようになった。どうやら近くに川が流れているらしい。

(つづく)

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