2014年1月23日木曜日

森の中7

(昨日のつづき)

「おーい、カーン、トー、こっちーこっちー」
チヨはカンとトウを呼んでいるのに、二人は土手の上でちょっと立ち止まったから気付いたはずなのに、トウなんてこっちに向いてたのに、クルッと回ってさ、こっちに来ないでさ。
「カンちゃんとトウちゃん、先に行っちゃったな。きっと、川の音で聞こえんかったかの」
チヨの不満そうな横顔を見て、隣にいた同級生のヤスが言った。
「ううん、あれは気づいちょった。カンのバカたれ」
「んじゃ、照れちょるんじゃよ。ここに居るのはカンちゃんより大きいもんな」
「でも、トウを連れとるんのにさぁ、まぁまぁ、ええよ」
「きっと、そんなに遠くには行かんよ。ザクロ石は川の浅いトコで取るし、水に入らんでも河原でも探せるしの」
「うん、まぁ、だから、ええんじゃよ」
チヨは心の中でもう一度「カンのバカたれ」と呟いた。でも、直ぐにザルを川につけてザクロ石を探し始めた。チヨたちはくるぶしより少し水かさがあるくらいの浅瀬でザクロ石を探していた。先週の大雨で上流から流されてきたのか、この日は赤いザクロ石が面白いように採れた。上からでも透き通った川の中でゆらゆらと光を跳ね返しているザクロ石がチラチラと見えた。
 カンとトウは、チヨたちのいる所から土手の道を下流に20分も歩いた葦の原の近くに来ていた。その辺りは村の子供らはあまり来る事がなかった。もっと村の近くで十分に遊べるのだから。カンも去年の春に父のうなぎ採りについてきた事が一度あるきりだった。トウは来た事がないからか、広い葦の原を見てビックリしたような顔をしている。「さぁ、ザクロ石いっぱい採るぞ」とカンがトウに言おうとした時に、
「カンニー、カンニー、アソコにくろいのがおるよ。くろいのがおるよぉ、なんだ、あれぇ」
と目を真ん丸に開いてトウが言う。カンの家の女たちは本当に目が良い。トウの指差す方には、黒になったA子が葦の原の隙間でたゆたっていた。

(つづく)

0 件のコメント:

コメントを投稿