2014年1月30日木曜日

森の中12

(昨日のつづき)

 三人は、もわっと甘い香りが充満した部屋に通された。天井から卵形の黄色い実がついた蔓が何本も垂れ下がっている。「ソファーに腰掛けて少し待っていてください」と手伝い女は出ていった。
むせ返るような甘い香りは三人の意識を朦朧とさせた。だんだんと眠りに落ちてしまいそうになる。しばらくして、奥のドアから、爺さんだか婆さんだか分からないくらい年をとった森の家の人があらわれた。三人は眠ってしまいそうになりながらも、森の家の人に訊ねた。
「こんばんは、今日はどんなご用件ですか・・・」
「やぁ、こんばんは。コウもサクもジュンも大きくなったね。もういい大人だねぇ、家族も居るんだろう。村の方は時間がどれほど・・・」
森の人の声を必死で聞こうとしたが、甘い匂いは強くなる一方で、とても意識を保ってはいられなかった。
 気がつくと、三人はソファーに腰掛けたまま、明るい森の中にいた。いつの間にあらわれたのだろう、目の前のシワくちゃの顔をした大猿がいる。大猿は三人の頭を子供にするように撫でると「では、行こうかね」と言った。三人は何か喋ろうとしたが「きぃきぃきぃ」という声が出ただけだった。三人もそれぞれ猿になっていた。ソファーも消えていた。4匹の猿は木の枝を器用に渡り、風のように森の奥に入っていった。

(つづく)

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