2014年5月15日木曜日

森の中47

(昨日のつづき)

泣きじゃくるS子を、近くにいた広場の人たちが「なんだ、どうした」と気にしはじめた。
「まあ、とりあえず、家に来るかい? うちの家でならいくら泣いてもかまわないし」
と、おばあさんは小声でマキに言った。
「そうね、私の家だと子供たちが居るかも知れないし」
マキも小声で答えた。
「じゃあ、これ被りなさい」
とおばあさんはS子の頭にスカーフを被せてやった。マキも腰にぶら下げていたタオルをS子に渡した。
「私も直ぐに行くから、母さん、父さん、お願いね」
「ああ、大丈夫、ゆっくり先に行っとるよ。さあ、S子さん立てるかね」
おじいさんとおばあさんは、S子の両脇を抱えるようにして立たせた。そして、おばあさんがS子の耳元で何か言うと、S子はこくんと頷いて、おじいさんとおばあさんの後をシャックリをしながらついて行った。マキはそれを見送ると風呂敷を広げて細々したものを詰めはじめた。その様子を見ていたのか、広場の向いにいたサクとジュンが「よう、マキさん、手伝おう」と小走りにやってきた。
「ああ、ありがとう。ここは、もう何もやる事ないわ。夜はコウが魚を焼いて売るみたいよ」
「ああ、それは俺たちも手伝うんだ。な、なあ、あの女の人どうしたんだい?」
サクとジュンだけじゃなく、近くの人も少し心配そうにマキの方を見ている。マキは、何でもないわという風に、腰に手をやって首を回しながら言った。
「ああ、S子さん? 彼女ったら、シャックリが止まらなくてむせちゃったのよ。おじいちゃん家のお茶でそういうのに効くのがあるから、連れてってもらったのよ」
「なんだ、それだけかぁ」
「そう、それだけよ」
そう言うと、マキはふろしき包みとさっき屋台で買った食べ物の包みを持ち、ヒラヒラと二人に片手を振って「また、後でねぇ」と広場から出て行った。
後に残されたとサクとジュンはマキの背中を見送ると「うーん、まあいいか」と顔を合わせた。
そこに呑気なコウが「よう、ウナギとナマズが大漁だぞ」と両手に魚籠をぶら下げて帰って来た。

(つづく)

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