2014年5月13日火曜日

森の中45

(4月30日のつづき)

「お母さん、お花を貰って来たわ。おじいちゃんたち後でパン買いに来るって言ってった」
と息を切らしてチヨが言った。屋台に戻ると、エプロン姿のマキとS子も加わってパンを並べていた。二人が花をマキに渡すと横にいたS子が驚いた様子で赤い三角の花をマジマジと見つめている。
「ね、お母さん、すごくキレイな花でしょう。こんな三角の花なんて、私、始めて見たわ」
と言ったA子の言葉はS子の耳に届いてないみたい。ジッと花を見つめているS子の肩をマキがぽんぽんと叩いた。
「S子さん、どうしたの? この花が珍しい?」
マキにそう言われて、S子は我に帰ったように、ふうと息をはいた。
「ねえ、この花は何て言う名前なの?」
「え、名前は知らないわ。おじいちゃんに聞けば分かると思うけど、どうして?」
「この花を見るの始めてだと思うんだけと、何だか、とてもよく知ってるような気もするの。何だかとても懐かしい気がするの・・・」
「あら、そんなことよくあることだわ。きっと小さい頃に見た事があるのよ」
「うん、でも、やっぱり、きっと始めて見るわ。たぶん、私の勘違いだわ・・・」
と言いながら、S子の目に涙が溢れてきて、ツーツーと糸のように頬を伝って流れいる。
「S子母さん、どうしたの?」
「え、何が?」
「だって、涙が出てるわよ」
S子は顔を手で抑えた。
「やだ、なんで私泣いてるのかしら・・・」

(つづく)

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