2014年4月24日木曜日

森の中41

(4月10日のつづき)

犬を見ながら、A子とカンは言葉を失って立ち尽くしている。二匹の犬はヒョイと見上げると立ち上がり、森の方へ歩き出した。二人は顔を見合わせて頷き、犬の後を追って森の中に入って行った。二匹の犬は森の中をトットットと進んで行く。トットットットットットと随分と長い時間、森の中を歩き続けている。ざぁざぁと川の音が聞こえて、二人は喉が乾いたなと思った。すると、二匹の犬は木を縫いながら緩やかな坂を下って川の縁に降りて行った。二人も懸命に後をついて川の縁に降りた。犬は川の水をゴクゴクと飲んでいる。川の水は白く濁って底ででチカチカと川底の石が光っている。二人も犬の横で四つん這いになって、ゴクゴクと川の水を飲んだ。川の水は甘いミルクの味がした。ごくごくごくごく、二匹の犬と二人は『ぷはぁ』と川の水を飲み終えて満足げに首をまわした。一息つくと二匹の犬は立ち上がり小さく「わん」と吠えて、また森の中へ戻って行く。二人もその後をついて歩いて行く。
 そして、森の中をほんのちょっとトットットと歩いたら、不意に森から抜けて森の家の人の庭に戻って来た。A子とカンは森の中をどう歩いたのか分からないけど、行きと帰りの時間が違い過ぎて狐につままれたように呆然と庭の端で立ち止まった。犬たちは焚き火の側まで行くと『わん』と吠えてもとのように座った。
 森の家の人が「白や黒や、どうかしたのかい?」と家の中から出てきた。森の家の人は庭の端に立っているA子とカンを見ると、少し驚いたように、
「おや? 二人とも帰ったんじゃなかったのかい? 何か忘れ物でもしたのかい?」
と言ってから、「あっ」と何かに気付いたように犬たちの方をチラッと見た。犬たちは知らん顔して焚き火の側に座っている。A子とカンは、森の家の人に小走りで近づいて来て、
「あ、あの、僕たち、ちゃんと帰って来てますか?」
と不安そうに森の家の人に訊ねた。
「ああ、今度はちゃんと帰って来てるよ。ほら、二人とも、もう遅いから早く家にお帰り」
森の家の人はニッコリと笑って二人に頷いた。二人は安心したように森の家の人に頭を下げると「じゃあ、おやすみなさい」と庭を出て行った。
森の家の人は、二人の去る背中を見送りながら「ははは、あの二人は本当に森に好かれているんだなぁ」と二匹の犬の背中を撫でてながら呟いた。

(つづく)

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