ちちちっちちちちっちちちちちちちちちっと音がする。葦の草むらに数匹のカネタタキがいるらしい。黒になったA子は、しばらく葦の根元でジッと様子をうかがっていた。透明の川の水になってずいぶん流れていたから森の中を抜けてしまったようだ。
A子は夜空を見上げて森に戻る方法を考えようとした。でも、それよりも何よりもお腹が空いて仕方がなかった。なので、とりあえず、目の前の葦の茎を噛んでみた。噛み取ると青く苦い。齧られた葦はふぁさっと水面に倒れこんだ。その葦についていたカネタタキが水の上に落ちてクリクリ回っている。A子はカネタタキも食べてみた。口の中でプチッと潰れて、茶色い味がした。A子はそこらにある物を手当たり次第に食べていった。水草、水苔、流木、タガメ、タニシ、メダカ、ザリガニ、カエル、さらに、石、空き缶、靴、ビニールなどなど、本当に手当たり次第。それぞれが赤やら緑やら紫やらビニールやらの味がした。A子はいろいろ食べたけど、黒なので黒いままだった。何を食べてみても、黒いまま、お腹は空いたままだった。A子はとても悲しくなった。目から涙が溢れて止まらなかった。夜空では満天の星が「赤いサソリの歌」を歌っていた。
(つづく)
(つづく)
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