2014年12月18日木曜日

森の中53

(一昨日のつづき)

湖面はプクンプクンと上がる泡から出来る波紋が幾つもの円を描いている。その円形の波でゆらゆらと揺れ動くカヤックに子供たちは身体を預けて泡を吸い込んでいる。右手で葦のストローを持ち、左手を空にかかげている。その左手の指の先からプクンと泡が上がる。そして、その泡はゆらゆらと満月に吸い込まれていく。A子は目の前に上がった泡を葦のストローですぅすぅと吸い込んだ。吸い込んだ泡は身体の中でプッと一瞬膨らんで、左手の指先からプクンと出て行く。その感触がくすぐったくて何だかとても面白いと思った。A子はもっと泡が上がってないかなと目を細めて湖面を見つめた。湖の湖面には波紋がぶつかりあって出来た渦がそこここでクルクルと回っている。A子のいるちょうど真ん中辺りの渦はかなり大きい。
「A子ちゃん、もう戻って!早く早く!」と岸の方からチヨの呼ぶ声が聞こえる。ハッとしてA子は顔を上げた。既に他の子供たちのカヤックは岸辺の近くにいる。A子は慌てて上半身を岸の方にひねった。途端、カヤックはひっくり返り、木の葉のように大きな渦に巻き込まれて行った。

(つづく)

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